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【ホライズンのオススメ! №158】『孫子』を読む

坂東です。

「孫子」といえば、解説本を読んだことがある方が多いのではないでしょうか。
今回は、その中でも著名と思われる「『孫子』を読む」(浅野裕一 講談社現代新書)をおすすめします。

1993年に第1刷ですから、ずいぶん前の本です。
中国哲学の大家であり東北大学教授(当時)である浅野祐一氏の著作であります。
孫子マニア(?)の方は必読書だといった紹介を見た記憶があります。

私がこの本を読もうと思ったのは、週刊ダイヤモンド2016年9月10日号の「孫子」特集の紹介記事でした。
私が強く興味をそそられたのは、著者の浅野氏による次のコメントです。
「ビジネスパーソンであれば、やはり孫子と三国志は、日本人の体質に合わない、すなわち『実践しづらい』ということは理解しておいた方がよいです。」
「一般的な日本の企業は、まず品質の良い製品をつくろうと努力します。次に、世界一の品質を目指します。そして、世界最高水準に達すれば、その製品は必ず売れるはずだと考えます。ところが、そう考えているうちは、いくら孫子を読み込んでも、実践は無理です。」
「孫子の考え方は『わが軍隊は弱い。だから、騙して勝つしかない』というくらいに異なるのです。この例で言えば、むしろ日本の企業は『弊社の製品は品質が悪い。だから、世の中を騙してでも売るしかない』というところまで行けば、本当の意味で孫子の考え方をビジネスに応用できたと言えるでしょう。」

「『孫子』を読む」も、基本的に上の発想で書かれているといえます。
「孫子」の代表的な部分を著者が選び出して、読み下し文→著者による現代語訳→著者による解説という体裁になっているので、とても読みやすい内容になっています。
そして解説は、ビジネスへの応用といった視点はほぼなく、太平洋戦争への言及を中心として、日露戦争、湾岸戦争、孫子当時の戦争というように、戦争を題材として「孫子」の見地からの解説がされています。
ですので、戦略・戦術的見地を重視した歴史読み物として、読みごたえがありました。

司馬遼太郎氏や塩野七生氏の歴史著作は、題材となった民族や人物に入れ込んで、その英知・言動に感動しながら読むといった印象ですが(あくまでも私の印象)、「『孫子』を読む」は「孫子」の見地からの淡々とした分析がなされており、歴史読み物としての性格では両者は大きく異なるのですが、いずれも、私にとっては何度も読み返してしまうような魅力があります。
例えば、「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」(戸部良一ほか 中公文書)を、「『孫子』を読む」的な観点から読んだことを思い出しました。この本の読み方としては邪道かもしれませんが。

なお、ビジネス的な観点からの「孫子」の本を私が嫌いというわけではありません。
守屋洋氏の「孫子の兵法」(知的生き方文庫)は、高校生のころに何度も読み返した本です。どういう気持ちで何度も読み返したのか今となってはよく覚えていないのですが。
通っていた高校までの通学時間がバス→電車で1時間40分くらいかかっていたので、通学中に本を読む時間がたっぷりとあったのでしょう。

ともあれ、ビジネスや生き方に役立てようといった観点ではなく、歴史読み物として孫子を読んでみたいと思う方は、「『孫子』を読む」を楽しんでいただけるのではないでしょうか。
個人的におすすめの本です。


次回のホライズンのオススメ!は5月8日(水)更新予定です。

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